東京高等裁判所 昭和34年(う)2353号 判決
被告人 荒井裕
〔抄 録〕
按ずるに、被告人は原判示第二記載の日時に、原判示の如き二以上の車馬が併行することができる道路において、上野方面より市川方面に向い、自動三輪車を運転して先順位の車馬の通行すべき道路の内側を約百米進行したことは、原判決挙示の関係証拠によりこれを認めるに十分であるから、原審裁判所がこれを道路交通取締法第十六条、同法施行令第十一条第二項、第七十二条、昭和二十九年十二月十五日東京都公安委員会規則第六号東京都道路交通取締規則第四条、昭和三十二年八月三十一日東京都公安委員会告示第六十八号交通区画線記号、罰金等臨時措置法第二条に該当するものとして処断したことは正当と言わなければならない。所論は被告人はその操縦する自動三輪車の前方をトヨペツトのライトバン車が左折したので、やむを得ず右側の高速車通行区分に入つたものである。通常左折する自動車は徐行することになるので、後続自動車は左折車の右側に出てこれを追越すことになるが、その際通行区分を若干の距離(本件においては約百米)オーバーすることもあり得るのであつて、道路交通取締法施行令もかかる場合を予想しその第十一条第三項但書の規定を設けている。すなわち本件は右但書に該当し無罪たるべきものであるのにかかわらず、原審裁判所は事実を誤認し且つ法令の適用を誤り右施行令第十一条第二項を適用したので破棄を免れないと主張するところ、後続車が左折する先行自動車を追越すに当つては、場合によつては或は一旦先順位車の通行区分内に入り進行するもやむを得ない場合があることは所論のとおりであるけれども、道路交通取締法及び同法施行令は道路における危険防止及びその他の交通の安全を図る目的を以て車馬相互の間に通行についての順位を定めているのであるから、右の如き場合においても後続車は先行車の追越を完了すれば出来得るかぎり速やかに自らの通行区分に戻りその内側を通行すべきものであると解するのを相当とする。しかして原判示道路は断続する白線を以て道路中央より順次両側の歩道に至るまでの間に高速車通行区分、低速車通行区分、自転車等通行区分を明示していることは原判決挙示の関係証拠により明らかなところ、被告人は漫然右自動三輪車を百米位にも亘つて高速車通行区分内を運転したことが証拠上明らかな以上、仮りに所論の如く被告人が先行車を追越すためやむ得ず一旦高速車通行区分に入つたとするも、前記の如く追越完了するや速やかに自らの通行区分に戻るべきであるのにこれをなさず漫然進行した被告人の所為は、前示法条に該当し処罰を免れないことは言うまでもなく、所論の主張は採用に値しない。
(三宅 東 井波)